「待つ」姿勢の原点 ~娘の子育てから痛感した教訓~
日野市程久保に私がピアノ教室を立ち上げたのは今春(2023年4月)ですが、指導歴は間もなく20年になろうとしています。
この約20年の間、私はずっと「待つ」という姿勢を大切にしています。
なぜなら子どもの成長は、その時には遅々としているように見えても、少し長い目で見ると、実はかなり劇的だったり、めざましかったりして、少し「待つ」ことによって思いもよらないほど見事な成長を見せてくれることが多々あるからです。
「待つ姿勢の大切さ」についてはこちら
具体的に、どのように大切にしているか…ということを実際のレッスンの事例を今までに2つ紹介しました。
「待つ」姿勢の大切さ レッスンの具体例①~4年間で練習熱心な小学2年生に大変身!レッスンですぐに泣いていた年中のS君の成長を「待つ」ことで起きた変化~はこちら
S君のその後の成長についてはこちら ~S君のその後の目覚ましい成長ぶりについて~
「待つ」姿勢の大切さ レッスンの具体例②~年中から小6まで8年間レッスンに通ったNちゃんの成長ぶりについて~はこちら
今回は、私が「待つ」姿勢の大切さを痛感し、身につけることとなった自分の子の子育てと、自分の子へのレッスンについてお話したいと思います。
子育てのゴール
小さなお子様を育てている親にとって、特にそれが初めての子育てだった場合、「これで良いのだろうか?」と思い悩むことが多々あるのではないでしょうか。
もちろん私も、そんな一人でした。
乳幼児期には乳幼児期の、小学生の時は小学生の時の、中高生の時は中高生の時の…と、その時期特有の悩みがあったように思います。
そんな時私は、子どもが20歳頃に社会へ出ていく時をイメージするようにしていました。
そこから逆算して、今何が必要なのだろう、どうすれば良いだろう…と考えるようにしていました。
漠然と…ですが、子どもが独り立ちして社会に出て行く…そこまでが親の務め、そこが子育てのゴールではないか…と思ったからです。
ご家庭によって、子育てのゴールの考え方は違うと思いますが、私はそう思って子どもに接していました。
今、娘は20代の後半になりましたが、結果として正解だった…と思っています。
娘は、社会人5年目となる今春、少女時代からの夢を果たす転職をしました。
子ども自身に自分の夢を実現させる…これこそ子育てのゴールであり、教育の目標だと思うのです。
「待つ」ことができなかった頃…ごみ箱に捨てられたバイエルピアノ教則本
娘が小学校3年生の時に、私はピアノ教室を立ち上げたのですが、そこで娘にもピアノを教え始めました。
ピアノ教室の立ち上げ(小金井)についてはこちら
娘は大らかでのびのびしている反面、器用さや要領の良さはありませんでした。
ピアノの腕はなかなか上達しませんでした。
同じところを何度やっても上手くできず、なかなか曲を仕上げることができませんでした。
そしてその頃の私は、講師としても、親としても、決して「待つ」人ではありませんでした。
私より上の世代や、少し下の世代の人で音楽大学に通っている人は、指導者に「言われたことは一度でできるようにしなさい。それができるように練習していらっしゃい。」と言われて育ったのではないでしょうか。
私にとって、それは絶対的なことのように思っていました。
加えて私の親はとても厳しくて、特に父の口癖は「早く、早く」でした。
私も無意識に「早い」ことが美徳であるように感じていました。
そんなわけで娘に「何度言ったらわかるの!」とか「できないならなんで練習しないの!」などという言葉を容赦なくぶつけていました。
もちろん生徒さんである、他のお子様にそんな言葉は使いません。
感情的にならず、客観的に指導ができるからです。
自分に対する態度と、他の生徒さんへの態度の違いを見た娘は、なんとバイエル(という教則本)をごみ箱に捨てたのでした。
(その当時はまだバイエルを使っていました。)
「バイエルからピアノスタディへ」はこちら
ごみ箱に捨てられているバイエルを見て、私は衝撃を受けます。
「どうして?」と娘に尋ねると、「もういらないと思って」という答えがかえってきました。
後年、娘の語るところによると、その時私はずいぶん優しく「ピアノ、もう弾かなくていいからね。」と言ったそうです。
とてもショックだったのです。
これは講師として、絶対にやってはいけないことです。
その後の娘と私…回復の機会
無理矢理ピアノを弾かせるわけにはいかない、かといってこのまま終わらせるわけにもいきません。
このままだと娘にとってピアノは嫌な思い出、しかも最悪の思い出です。
なんとしても、ピアノに対する印象を良いものに変えなければならない…
私はひたすらその機会を「待つ」ことにしました。
幸いその機会は数か月後に訪れます。
発表会の直前に、年中さんの新しい生徒さんがやって来て、できれば発表会に参加したい…と、希望されました。
その生徒さんは、最初の音の鍵盤の位置さえわかればなんとか1曲弾けそう…という状態だったので、娘にその位置を教えるガイド役をお願いしました。
また、簡単な曲に伴奏をつけるので、連弾のお相手をしてほしい…と頼みました。
最初はかなり渋っていましたが、その生徒さんがとても人懐こくて可愛らしいので、娘はすっかり乗り気になりました。
そして遂に「どうせ発表会に出るなら、私も1曲弾きたい。今からでもなんとかなる?」と言い出したのです。
この千載一遇の機会を逃すわけにはいきません。
そこから私は俄然態度をあらためて、「あなたが弾けるようになるために私は存在するのです。」というモードで、娘が発表会で一曲見事に弾けるように指導しました。
そしてこのモードは、私のピアノのレッスンすべての「標準」にして、その気持ちが伝わるように言葉を選び、態度に表すように心がけて、今に至っています。
もちろん人間なので、常にそれができているかどうかはわかりませんが、今日まで講師を続けて来られたのは、そのためだと思っています。
以来、娘は就職するまで毎年発表会に出続け、そしてよくお手伝いをしてくれました。
「ママの発表会、楽しくて好き」と、言ってくれます。
ごみ箱にバイエルが捨ててあった話は今や笑い話となり、何年かおきに、発表会で笑いをとる鉄板のネタとなりました。
さらにその後…本当に子育てが辛かった時
こうして私は「待つ」ことができるようになりました…と、言いたいところですが、これでメデタシ、メデタシ…ではありません。
子育てが本当に辛くて大変だったのはその後、娘が中高生頃のことでした。
レッスンから話が逸れてしまいますが、娘は中学・高校時代、不登校気味でした。
学校や塾から「お宅のお嬢さんが来ていません。」という電話がしょっちゅうかかってきました。
この時ほど娘の成長を「待つ」しかなかった時期はありませんでした。
娘のためを思ってかける言葉も、伝わっているのか、心に響いているのかわかりません。
いつまでたっても先が見えません。
そしてそれは、子どもの乳幼児の頃、言葉が通じない時期に似ているように感じました。
「駄目!」という言葉もまだわからない頃、やってはいけないことや、危険なことを態度で伝えて行く時期と重なるように感じました。
もちろん中高生に言葉は通じます。
ひょっとしたら親の思いもわかっているのかもしれません。
でも、自分でもどうにもできない事情を抱えているのでしょう。
とはいえ放っておくわけにはいきません。
そしてそんな時、「社会に出て行く時に何が必要か」という視点が再び戻ります。
言葉を尽くし、心を尽くし、思いを尽くし、行動を尽くして伝え続けます…しかるべき年齢の時に学校に通う方が楽であること、どんな行動も必ず自分にかえってくること、どんな行動も自分が責任をとって行く必要があるということ、などを。
もちろん「学校に行くこと」が必ずしも正解だとは限りません。
あくまでもこれは、この時の娘に対して必要だと思った行動です。
本当のゴール…子どもが社会に出て行く時
その後、娘は高校3年生の夏休み明けに高校生活の残りが少ないことに気づいて、学校に通うようになりました。
大学を選ぶにあたって、将来を見据えた選択をしました。
就職する時は、自分の夢ではない職種を選びました。
彼女が希望する職種は求人がほとんどないことを知っていたからです。
社会人経験を積みながら夢を実現させたい…そう言って社会に旅立ち、今春その夢を果たしたのです。
結果として、子育ては大成功…と私は思っています。
でも、もし彼女が転職していなかったとしても、私は子育てが成功だと思っています。
なぜなら、自分の足で社会に立てるようになる…それが子育てのゴールだと思っていたからです。
子どもの夢の実現の手助けのために親や大人がいる…そしてこれは親としての視点だけでなく、ピアノの指導者として、生徒さんに対して向けている視点でもあります。
私はピアノの指導者として、すべての生徒さん達に「音楽が好きな人になってほしい」と思うと同時に、「夢を実現する大人になってほしい」と思っています。
だから生徒さんがお教室を卒業して行く時、それが受験のためでも、部活動のためでも、全力で応援したいのです。
そしてその時に生徒さんの中に、できるだけたくさんの音楽の経験やピアノが楽しかった記憶が残っていたらいいな…と思って、日々指導にあたっています。
そうそう、娘はちゃんと「音楽が好きな人」になりました。
いろんなジャンルの音楽が好きですが、モーツァルトとハイドンが好き…というのだからなかなかの通だと思います。
以上、私が娘の子育てを通して「待つ」人になった経験をお伝えしました。
この姿勢を、レッスンの中でいつまでも大切にしたいと思っています。
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